Yamagata Bar Association
形県護士会

 山形県弁護士会について

 

適正な弁護士人口及び給費制復活を含む司法修習生への経済的支援を求める決議


決議の趣旨

  1.  当会は,政府に対して,2014年より司法試験合格者を1,000人以下にすることを求める。
  2.  また,早急に給費制復活を含む司法修習生に対する適切な経済的支援を求めるとともに,新第65期,第66期,第67期の司法修習生に対しても遡及的に適切な措置が採られることを求める。

決議の理由

第1.適正な弁護士人口について。

  1.  法務省の発表によれば2013年の司法試験合格者数は2,049人であった。
     司法試験の合格者は1990年までは年間約500人であったが,その後に増員が繰り返され,2002年から約1,200人,2004年から約1,500人と増加し,2007年以降は2,000人台に増加されてきた。
     この司法試験合格者数の増加は,司法修習修了後の判事補,検事への任官者数が増加していないため(逆に近年は減少傾向にある),必然的に弁護士人口の大幅な増加に直結し,2000年3月に1万7,126人であったところ,2014年2月に3万5,445人と14年間で2倍以上に急増した。
     そして,この弁護士人口の急激な増加は,司法修習生の就職難,新人弁護士の既存の法律事務所での研鑚(OJT)の機会の不足,ひいては法曹志願者数の激減などの様々な問題を生じさせた。
     そこで日弁連は,2012年3月15日の理事会で「法曹人口対策に関する提言」を決議し,「司法試験合格者数をまず1,500人まで減員し,更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要,問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべき」であることを提唱した。
     しかし,2013年12月の一括登録時点における弁護士未登録者数は584人,28.7%にのぼる一方,法曹志願者数の激減にも全く歯止めがかからないなど事態の進展は極めて深刻であり,法曹すなわち司法を支える制度自体が危機的状況にあると言わざるをえない。

  2.  言うまでもなく基本的人権の擁護と社会正義実現をはかるためにわが国憲法における司法は重要な役割を求められている。
     特に弁護士は,民間職業人でありながら,憲法上刑事裁判において人権擁護のための重要な機関とされており,民事訴訟,行政訴訟においても,弁護士が代理人として具体的事件を取り上げて訴訟を提起し,法廷活動を行うことによってはじめて裁判所の人権擁護や,社会正義に資する政策形成がなされるのであり,司法制度における弁護士の役割は必要不可欠かつ極めて重要なもので公共的機関性を有するものである。
     従って,弁護士業務は,その職務に関して高度の資質が求められ(弁護士法1条第2項),国家権力からの独立性とその前提としての経済的独立性も必要不可欠なものである。
     新規登録弁護士の就職難が社会問題化していることは周知の事実である。既存の法律事務所における研鑚(OJT)の機会もなく,経済的独立すらおぼつかない新人弁護士が急増すれば,国民の基本的人権の尊重や社会正義の実現という弁護士の責務を十分に尽くすことができず,その不利益が国民に及ぶおそれを生じさせる。
     さらに法科大学院入学志望者数の推移にみられるように法曹志望者が激減している実情は,この問題が一刻の猶予も許されない極めて深刻な事態であることを示している。法曹志望者の激減の原因は,法曹資格取得後の就職や開業に十分な見通しを立てることができない司法修習修了者や新規登録弁護士の実情が明らかになっているためである。このような状況が今後も続く限り,将来法曹を担うべき有為な人材がいなくなることになり,司法が機能しなくなる可能性も否定できない。

  3.  当会は,適正な法曹人口について山形県内の事情を加味しながら,2002年10月24日に平成14年山形県地域司法計画案決議をし,2009年2月27日には司法試験合格者数を1,500人程度にとどめるべしとの総会決議をした。
     すなわち,前記司法計画案においては,県内の需要調査を行なったうえで10年以内52名の会員数を80名に増員することが必要としたが(被疑者国選制度実現をひかえての政策的目的もあった),2009年の総会決議時点では,その増員の見通しがついたとして,適正弁護士人口を考慮しての1,500人決議であった。
     しかるにその後も当会の会員数は増加し,2014年2月時点では会員数90名となった。
     司法制度改革は,国民の法的サービスに対する利便性の向上の観点,すなわち弁護士過疎地域の解消も目的とされてきたところ,山形県内でも,本庁管内で59名,米沢支部管内で10名,鶴岡支部管内で9名,酒田支部管内で8名,新庄支部管内で4名の弁護士がそれぞれ活動しており,山形県内のどの圏域でも弁護士への需要に対して十分に応えられる体制が整っている。
     他方,山形県内人口は,1988年をピークに減少し続けており,2013年までに12万人以上減少しており,今後も減少し続けることが予想される。
     事件数においても,破産事件は2009年より急激に減少しており,一般民事事件ももともと横ばいあるいは減少傾向にあったものが,一時的には過払い金訴訟などの急増で全体として増加したものの,それらの事件の減少により全体の減少傾向がはっきりとし,今後増加に転じる要因はみあたらず,刑事・家事事件も明確な増加の傾向にはない。
     また,弁護士の増加を必要とするだけの活動領域が,訴訟事件以外の分野で大きく拡大しているという事実もない。
     当会会員の9割近くは民事法律扶助の契約弁護士となり,県民の法的需要に応えてきたが,2011年より扶助件数は減少に転じている。

  4.  前述のような法的需要の減少は当会に限ったことではなく全国的な傾向である。
     日弁連が1,500人減員の理事会決議をした後も,司法試験合格者数は,2012年2,102人,2013年2,049人と2,000人台を維持しており,合格者増による前記弊害は解消されることなく拡大しており,まさに猶予のない状況である。
     このまま2,000人合格の場合は,法曹人口は2048年ころには8万6,000人ほどに,1,500人合格の場合は同じく6万6,000人ほどとなり,仮に1,000人に減員したとしても,2043年ころには5万人ほどとなり,いずれにしても弁護士人口が増え続けることは確実である。

  5.  弁護士人口が既に供給過剰に陥っていることは,総務省による法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策評価(2012年4月)によっても明らかにされているところである。

  6.  従って,当会が1,500人減員総会決議をした当時から司法試験合格者数は2,000人台を維持したままでさらに状況は悪化していることから,2014年より直ちに1,000人以下に減員することを求めるものである。

第2.給費制復活を含む司法修習生への経済的支援について。

  1.  司法修習生は,最高裁判所によって採用を命じられ(裁判所法第66条第1項),守秘義務を負うほか,司法を担う法曹としての高い専門性を修得するため1年間司法修習に専念する義務を負い(同法第67条第2項),兼業・兼職が禁止され,収入を得る道はない。また,司法修習生は,全国各地に配属され司法修習を行うため,現在の居住地とは異なる場所に配属され,引越費用や住居費などの出費を余儀なくされることもある。
     このような司法修習生の法的地位及び実態を踏まえ,新第64期及び現行第65期までの司法修習生に対しては,司法修習中の生活費等の必要な費用が国費から支給されていた(以下「給費制」という。)。しかし,2011年11月から司法修習を開始した新第65期の司法修習生から,給費制は廃止され,司法修習費用を貸与する制度に移行した(以下「貸与制」という。)。

  2.  日本弁護士連合会は,昨年6月,新第65期司法修習生に対し,司法修習中の生活実態を明らかにすることを目的としてアンケートを実施した。
     このアンケートの集計結果によれば,28.2%の司法修習生が司法修習を辞退することを考えたことがあると回答し,その理由として,86.1%が貸与制,74.8%が弁護士の就職難・経済的困窮を挙げた。すなわち,司法試験に合格していながら,経済的理由から法曹への道をあきらめることを検討した者が3割近くもいる実態が明らかになった。
     さらに,司法修習生の月平均の支出額は,住居費の負担がない場合が13万8,000円であるのに対し,住居費の負担がある場合は21万5,800円であった。
     司法修習の開始に伴い修習配属地への引越が必要だった司法修習生は,約6割を占め,この場合には,引越費用等で平均25万7,500円が別途必要になる。
     山形の新第65期司法修習生に対するアンケート結果においても11名が,引越費用や就職活動のための交通費等の負担での生活は大変であったと回答し,貸与制による借金を抱えての将来に対する不安を訴えている。
     また,第66期に対するアンケート結果においては,今後の修習生活費に対する不安,就職難に対する不安,将来借金返済が可能か不安に感じている者がほとんどであった。
     以上のとおり,新第65期司法修習生及び第66期司法修習生に対する生活実態アンケートにより,貸与制の不平等さや不合理さが改めて明確になった。司法修習生の多くは大学及び法科大学院の奨学金等の返済義務を負担しており,更に貸与制による借金が加算されることになる。こうした経済的負担の重さや昨今のいわゆる「就職難」が法曹志願者を減少させ,有為で多様な人材が法曹の道を断念する一因となっている。

  3.  そもそも三権の一翼を担う司法における人材養成の根幹をなす制度負担について,本来財政的事情のみで私費負担とすべきではなく,前述のような将来に対する不安を抱えながらの司法修習は,司法修習制度の目的実現にとって悪い影響となることは否定できない。
     そして,前述したとおり,司法研修所を卒業した66期のうち,一括登録日に弁護士として活動するために必要な弁護士会への登録を行わなかったものが584人と過去最多になっている(その後の弁護士登録予定者を控除した未登録者数でも400人を超えている)。
     これは貸与制も含めた負担の増大と就職難が大きな理由と考えられる。

  4.  2012年7月に成立した裁判所法の一部を改正する法律によれば,「司法修習生に対する適切な経済的支援を行う観点から,法曹の養成における司法修習生の修習の位置付けを踏まえつつ,検討が行われるべき」ことが確認された。これを受けて,昨年8月21日の閣議決定により法曹養成制度検討会議が設置された。
     同検討会では,法曹養成制度において司法修習は重要な役割を担っており,司法修習生を修習に専念させる必要性があることから,給費制が制度化されていたことや,法科大学院制度を導入したうえで給費制を廃止すれば,経済的に余裕のない者が生じるなど,給費制廃止の弊害も指摘されていた。また,パブコメでは,2,400件もの意見が寄せられ,その大多数が給費制の復活を求める意見であった。
     しかるに,同検討会は,貸与制を前提とした中間的取りまとめをし,修習専念義務を緩和して一部アルバイトを認めるなど,極めて不十分かつ不合理な内容となっている。

  5.  そもそも,良質な法曹に支えられている司法制度は,法の支配の確保と国民の基本的人権の保障のための重要な社会的インフラである。したがって,法曹養成は国が責任をもって行うべきものである。
     弁護士を含む法曹が,社会正義実現の担い手として地域社会の各方面で公共的な役割を積極的に果たしていることも,国家国民の負担により養成された者としての自覚の現れであるということもできるのである。

  6.  当会は,有為で多様な人材が経済的事情から法曹の道を断念することがないよう,早急に給費制復活を含む司法修習生に対する適切な経済的支援を求めるとともに,新第65期,第66期,第67期の司法修習生に対しても遡及的に適切な措置が採られることを求めるものである。


2014年(平成26年) 2月28日
山形県弁護士会


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