Yamagata Bar Association
形県護士会

 山形県弁護士会について

 

消費者庁・国民生活センター・消費者委員会の地方移転に反対する会長声明


 政府は、「まち・ひと・しごと創生本部」に、「政府関係機関移転に関する有識者会議」(以下、「有識者会議」という。)を設置し、政府関係機関の地方移転について検討している。その中で、消費者庁の全部(内閣府消費者委員会を含む。)と、国民生活センターの全部を徳島県へ移転することが審議されている。

 しかし、以下の理由により、当会は、消費者庁、国民生活センター、消費者委員会のいずれについても、地方移転には反対する。

第1 はじめに

 政府関係機関を地方に移転する取り組み自体は、地方の活性化に資する場合もあると思われ、当会としては、そのような取り組み全てに反対するものではない。

 しかし、地方移転によって政府関係機関が果たすべき機能が大きく損なわれることになってはならないから、地方移転にあたっては、その機関の果たすべき機能を個別に検討することが不可欠である。

 この点、有識者会議も、道府県からの地方移転に関する提案のうち、官邸と一体となり緊急対応を行うなどの政府の危機管理業務を担う機関や、中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関、移転した場合に機能の維持が極めて困難となる機関に係る提案については、移転させないとの方向性を示している。

 以上のような観点から個別に検討すると、消費者庁、国民生活センター、消費者委員会のいずれについても、地方移転によりその果たすべき機能が大きく損なわれると言わざるを得ない。

第2 消費者庁の地方移転に反対する理由

1 消費者庁は、中国製冷凍ギョーザ事件や、食品表示偽装などの重大な消費者問題の相次ぐ発生を受けて、従来の各省庁縦割りの仕組みを解消して消費者行政を一元化し、安全安心な市場、良質な市場の実現を図るため、平成21年9月に発足したものである。

 消費者問題は、食品や製品の生産・流通・販売・安全管理、金融、教育、行政規制、刑事規制などの多くの領域に関わっている。関係省庁も、経済産業省、金融庁、農林水産省、厚生労働省、国土交通省、文部科学省、警察庁など多岐に渡る。関連法も、その大多数が未だ消費者庁以外の各省庁の所管である。そのため、消費者庁には、各省庁から情報を集約して調査・分析を行うことや、各省庁に対する措置要求(消費者安全法第39条)、横断的な制度の企画立案など、業種横断的な司令塔の役割を担うことが求められている。

 また、所管法・所管大臣がない隙間事案については、消費者安全法40条(事業者に対する勧告・命令)、41条(譲渡等の禁止又は制限)、42条(回収等の命令)などの規定を活用し、消費者庁が直接対応することとなっているが、隙間事案であるかどうかは各省庁間で必ずしも認識が共通でない場合も多いと考えられるので、対応のためには他省庁との迅速な協議が必要である。

 これらの機能を果たすためには、関係各機関への日常的なアクセスが不可欠であることは言うまでもない。

 なお、現在、消費者庁を担当する大臣は内閣府特命担当大臣であるが、担当大臣が霞が関に居るのでは、密接な意思疎通は困難である。

2 消費者庁は、緊急時における危機管理業務も担っている。

 例えば、平成25年12月29日、冷凍食品から農薬が検出されたため自主回収する旨を事業者が発表した事件では、関係各省庁の局長級で構成される「消費者安全情報総括官会議」が実施されたほか、消費者庁が、食品衛生法を所管する厚生労働省をはじめとして、食品安全委員会、農林水産省、警察庁などと連携し、情報の共有・発信と被害の拡大防止などの対応にあたったことは記憶に新しい。

 こうした緊急事態においては、インターネットや電話などを通じた遠方からの情報交換や情報発信だけでは足りず、直ちに対面の会議を開いたり官邸や省庁を回るなどして情報収集と情報共有を行い、記者会見などのマスコミへの情報発信を行う必要がある。

 また、消費者庁は、「消費者安全情報総括官会議」が開催される際には事務局を務めなければならず、消費者庁が、資料作成や会場設営などの準備を行い、会議当日も出席しなければ会議は成り立たない。

3 消費者庁では、消費者関連法の改正作業が頻繁に行われている。最近では、消費者安全法、景品表示法の改正、消費者裁判手続特例法の創設などである。現在も、特定商取引法、割賦販売法、消費者契約法、公益通報者保護法の改正のための検討作業が行われている。

 法改正にあたっては、関係省庁や内閣法制局との協議、衆参両議院の「消費者問題に関する特別委員会」、各政党の消費者問題に関する調査会への出席及び説明等の対応が求められる。消費者庁が地方に移転すれば、これらの対応に支障が生じるのは明らかである。

第3 国民生活センターの地方移転に反対する理由

1 国民生活センターは、消費者基本法第25条に定められた消費者行政の中核的実施機関として、消費者庁と連携して、関連省庁に意見を述べたり、地方消費者行政の支援、消費者・事業者・地方自治体・各省庁への情報提供を行っている。

2 例えば、国民生活センターは、全国の消費生活相談センター・消費生活相談窓口の相談情報を集約した「PIO-NET情報」を作成しているが、その情報を分析し、各省庁が消費者関連法の制定・改正を行う際、その立法事実を明らかにする資料を作成し、情報提供している。消費者庁のみならず、警察庁、経済産業省をはじめ各省庁が、消費者関連法を執行したり、改正を審議するにあたって、国民生活センターに相談情報の分析を依頼しており、この機能は消費者行政の推進や法の新設・改正に極めて重要な役割を果たしている。

 これらの機能を果たすためには、各省庁や事業者に近接する位置で、密接な連携・協議を行う必要がある。

3 また、国民生活センターは、全国各地の消費生活センター・消費生活相談窓口の相談処理の支援機能として、相談支援、情報提供、商品テストに基づく注意喚起・情報提供・事業者指導、裁判外紛争解決手続(ADR)などを実施している。

 これらの機能を果たすためには、各省庁との密接な協議、多数の専門家の確保、協議のための事業者の来訪・訪問などが必要となるが、各省庁とのアクセスが困難になるほか、地方で多数の専門家が確保できるか、事業者が来訪するかなどの懸念が生じる。

第4 消費者委員会の地方移転に反対する理由

 消費者委員会は、現在非常勤の委員10名から構成されており、月に1回程度の本委員会のほか、新開発食品調査部会、消費者契約法専門調査会、特定商取引法専門調査会、ワーキング・グループなどの部会・専門調査会等が随時開催されており、消費者庁を含む関係省庁からの諮問事項を審議するほか、任意のテーマを自ら調査して関係省庁への建議等を行うという監視機能を有している。

 このような監視機能を行使するにあたっては、関係省庁や関連事業者、事業者団体からの事情聴取・協議も頻繁に行われている。具体的には、委員会の会議の場にこれら関係省庁、事業者等を招聘するほか、委員会側から直接赴いて事情を聴取し、あるいは改善の必要性について説得することも行われている。とりわけ、建議の対象となる省庁や関連事業者を相手とする場合、こうした直接の面談、交渉抜きでは実情を十分に踏まえた建議等の取りまとめは困難であるし、説得を行わないまま提案を行っても、その実現可能性が大きく低下することとなりかねない。

 以上のような実情に鑑みても、消費者委員会の地方移転は、大幅な機能低下をもたらすおそれが大きいと言わざるを得ない。

第5 結論

 以上の通り、消費者庁、国民生活センター及び消費者委員会が地方へ移転することによりその果たすべき機能が大きく損なわれると言わざるを得ないものであり、消費者庁、国民生活センター及び消費者委員会の地方移転には反対する。


2016年(平成28年) 1月22日
山形県弁護士会
会長  安 孫 子 英 彦


上へ

Copyright © 2004-2015 Yamagata Bar Association,