2009年1月29日,東京拘置所において1名,名古屋拘置所において2名及び福岡拘置所において1名の計4名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
これは,森英介法務大臣が就任してから2度目,昨年10月の執行に続き,3か月という極めて短い期間で死刑を執行する姿勢を示したものであり,誠に遺憾である。
我が国では,4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し,死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっているが,このような誤判を生じるに至った制度上,運用上の問題点について,抜本的な改善が図られておらず,誤った死刑の危険性は依然存在する。また,死刑と無期刑の量刑につき,裁判所によって判断の分かれる事例が相次いで出され,死刑についての明確な基準が存在しないことも明らかとなっている。
さらに,死刑判決事案ではないが,2009年5月8日には足利再審請求事件において,弁護側及び検察側それぞれが推薦した鑑定人がいずれも確定判決により服役している受刑者と被害者の着衣に付着していた体液のDNAが一致しない旨の鑑定結果を裁判所に提出していることが明らかとなった。この鑑定結果は,確定判決の有力な証拠とされていた事件当時のDNA鑑定の証拠価値を揺るがすものであり,科学鑑定を絶対的証拠としては評価することができない場合があることを示している。この点においても死刑の執行には問題があるというべきである。
また,2009年5月21日から裁判員裁判制度が実施されるところであるが,多くの国民から死刑判決の判断をすることに対する不安と戸惑いが表明されている。そこで,死刑に関する国民的議論を更に深める必要があり,その意味においても死刑の執行を当面停止する必要がある。
当弁護士会は,2002年11月に発表した「死刑制度問題に関する提言」及び2004年10月に採択された「死刑執行停止法の制定,死刑制度に関する情報の公開及び死刑問題調査会の設置を求める決議」において,死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし,また死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間,死刑確定者に対する死刑の執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱してきた。
当弁護士会は,改めて政府に対し,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討及び見直しを行うまでの一定期間,死刑の執行を停止するよう,重ねて強く要請するものである。
2009(平成21)年5月19日
山形弁護士会
会長 半田 稔