平成16年の裁判所法の改正により,平成22年11月1日から,司法修習生への給与支給(給費制)に代えて,修習資金を貸与する制度(貸与制)が実施されることとなった。
この改正にあたり,衆参両議院共通の付帯決議がなされ,改革の趣旨・目的が「法曹の使命の重要性や公共性にかんがみ,高度の専門的能力と職業倫理を備えた法曹を養成する」ものであること(1項),「給費制の廃止及び貸与制の導入によって,統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう,また,経済的事情から法曹への道を断念する事態の招くことのないよう,法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め,関係機関と十分な協議を行うこと」(3項)として,弊害の防止が明記された。
裁判所法改正後,法科大学院が多数設立され,司法試験合格率は,司法制度改革審議会が期待した7,8割をはるかに下回り,平成20年度は33%にとどまっている。法科大学院への志願者は,前年度に比べて約6000名も減少している。
法科大学院への志願者が減少している背景には,合格率の低下に加え,法科大学院の学費と在学中の生活費の負担など経済的事情があることも看過できない。
そのうえ,司法修習生への給費制が廃止され,貸与制になれば,経済的不安により,初めから法曹への道をあきらめざるを得ない事態に拍車をかけることになる。まさにこれは,衆参両院が付帯決議で懸念していた弊害の現れである。
ところで,民間人である医師の養成制度については,平成16年,国家試験に合格した医師に2年間の研修を義務づけるとともに,研修中はアルバイトなしで研修に専念できるよう新たに国家予算を導入する措置がとられることとなった。
この措置により,従前から給費制廃止の根拠とされた2つの理由,即ち,非公務員である司法修習生への公費支給は極めて異例であること,及び法曹資格取得という利益を得るのであるからそのために経済的な負担をするのも当然であるとの考えは,その根拠の大半を失うことになった。
司法制度改革審議会は,弁護士の役割について,「国民の社会生活上の医師」であることを求め,弁護士に社会的責任(公益性)の自覚を求めるとともに,21世紀の我が国社会において期待される「国民の役割」として,「統治の主体・権利主体である国民は,司法の運営に主体的・有為的に参加し,プロフェッションたる法曹との豊かなコミュニケーションの場を形成・維持するように努め,国民のための司法を国民自らが実現し支えなければならない。」と述べている。
司法修習生は,裁判官,検察官として公務員になるのか,弁護士として民間人になるのかを問わず,このような21世紀の我が国社会において期待される法曹として,社会的なインフラ(基盤)である。
給費制は,有為な人材の確保,司法修習への専念,公共心の醸成された人材の育成,あるいは,弁護士になった者の社会への貢献・還元という点から法曹の養成に重要な役割を果たしてきた。
貸与制の実施は,このような法曹養成の理念を損なうことになるというべきである。
よって,当会は,国会,政府及び最高裁判所に対し,平成16年の裁判所法改正後の事情の変更,及び給費制が法曹養成に果たしてきた役割をふまえ,給費制に代えて貸与制を実施する時期を,平成22年11月1日から相当期間延期したうえで,給費制の継続の措置を講じられることを強く求める次第である。
以上
2009年(平成21年) 8月 19日
山形県弁護士会
会長 半田 稔