経済産業省及び農林水産省は,2015(平成27)年1月23日,商品先物取引法施行規則の一部を改正する省令(以下「本省令」という。)を定めた。
当会は,2014年(平成26年)4月5日付けで公表及び意見募集がなされた商品先物取引法施行規則に対し,同年5月1日付け会長声明において,これに反対する意見を表明してきた。
ところが,本省令は当初の公表案を若干修正し,同規則第102条の2を改正して,ハイリスク取引の経験者に対する勧誘以外に,顧客が65歳未満で年収800万円以上又は2000万円以上の金融資産(現金,預貯金等)を有する者である場合に,顧客の理解度を確認するなどの要件を満たした場合を例外とする規定(本省令第102条の2第3号)を,不招請勧誘の禁止の例外として盛り込んだものである。
しかし,上記の要件を満たすかどうかの顧客の適合性の確認自体が勧誘行為の一環としてなされるものであるから,本省令は,商品先物取引契約の締結を目的とする勧誘を不招請で行うことを許容するものというほかなく,実質的に不招請勧誘を解禁するものである。すなわち,本省令は,商品先物取引法第214条第9号の「委託者等の保護に欠け,又は取引の公正を害するおそれのない行為」に該当せず,法律の委任の範囲を逸脱した違法なものであり,省令によって,法律の規定を骨抜きにするものと言わざるを得ない。本省令は,透明かつ公正な市場を育成し委託者保護を図るべき監督官庁の立場と相容れないものである。
さらに,委託者に年収や資産の確認の方法として申告書面を差し入れさせたり,書面による問題に回答させて理解度確認を行う等の手法は,いずれも,現在も多くの商品先物取引業者が事実上同様の手法を採っており,その中で業者が委託者を誘導して事実と異なる申告をさせたり,正答を教示するなどの不正行為が蔓延し,被害が生じていることからすると,これらの手法が委託者保護のために機能するものとは評価できない。
そもそも,商品先物取引法における不招請勧誘を禁止する規定は,長年,同取引による深刻な被害が発生し,度重なる行為規制強化の下でもなおトラブルが解消しなかったため,与野党一致の下,2009年(平成21年)7月にようやく法改正が実現し2011年(平成23年)1月に施行されたばかりである。しかし,その後においても,個人顧客に対し,金の現物取引やスマートCX取引(損失限定取引)を勧誘して接点を持っておき,すぐさま通常の商品先物取引を勧誘し,多額の損失を与える被害が少なからず発生している実情がある。
本省令はかかる立法経緯及び被害実態を軽視し,商品先物取引の不招請勧誘を事実上解禁するものであり,消費者保護の観点から許容できず,当会はこれに強く抗議し,本省令を直ちに廃止することを求める。
2015年(平成27) 3月30日
山形県弁護士会
会 長 峯田 典明