Yamagata Bar Association
形県護士会

 山形県弁護士会について

 

原発事故による避難者に対する住宅無償提供終了に反対する会長声明


 東日本大震災以来,被災者に対する無償住宅提供は,災害救助法に基づき1年ごとに期限が延長されてきたところ,本年6月15日,福島第一原発事故により政府からの避難指示を受けずに避難したいわゆる「自主的避難者」について,福島県は,避難先の住宅の無償提供を2016年度(平成28年度)で終える方針を決定した。

 これにより,原発事故による自主的避難者への住宅提供は2017年(平成29年)4月以降延長されず,打ち切られるということになる。

 自主的避難者は,政府による避難指示区域外から避難したということで「自主」と呼ばれるが,自ら望んで避難生活を選んだ者はいない。放射能による健康被害に不安を持ち,避難生活を選択せざるを得なかったという点では,避難指示区域からの避難者と本来変わるものではない。そして,自主的避難者の多くは,災害救助法に基づく無償住宅の提供を各自治体から受けて生活している。

 山形県内にも2015年(平成27年)6月4日現在,福島県内からの避難者は合計3539人いるとされているが(山形県発表),この中にも自主的避難者が多数存在し,その多くは無償住宅の提供を受けて生活している。

 自主的避難者の中には,仕事を失った者,子どもを転校させた者,家族と別れて生活している者などが多数存在し,その精神的・経済的負担は測りしれない。しかしながら,東京電力から受けている賠償額は不十分であり,生活費増加分や交通費すら十分に支払われていないのが現状である。そのような中で,自治体から無償で提供されている住宅は避難生活を続けるための重要な支えとなっている。

 山形県が2014年(平成26年)10月24日に公表した避難者アンケート調査の結果によれば,避難の理由として53.4%が「放射能による健康への影響が心配なため」をあげている。また,今の生活で困っていること・不安なことについては,「生活資金のこと」が 63.7%と最も多く,次いで「住まいのこと」,「自分や家族の身体の健康」「避難生活の先行きが見えないこと」の順となっており,それぞれ 40%を超えている。住居に関して困っていることについては,「入居期限があること」が 50.8%と最も多くなっている。

 仮に無償住宅の提供が打ち切られれば,福島県への帰還を迫られることになり,避難先での仕事,学校生活,その他ようやく築きあげた人間関係を捨てざるを得ないことになるが,それは容易なことではない。一方で,避難生活の継続を選択すれば,家賃負担が重くのしかかり,経済的困窮に立たされる可能性が高い。避難者にこのような選択を迫ることは避けなければならない。

 自主的避難者に対しても幸福追求権(憲法13条),生存権(憲法25条)に鑑みて,将来的な生活支援のための計画が立てられなければならないものである。

 当会では,2014年(平成26年)3月11日,福島県弁護士会及び新潟県弁護士会と共同で,「原発事故被害者に寄り添い,支援を続けていくことの共同宣言」を発表している。ここでは,福島原発事故によって被害にあった方々が,その滞在,避難,帰還,定住いずれを選択した場合であっても,適切な支援を受けられるよう,被害者に寄り添い,共同して支援を続けていくことを宣言している。

 今回の福島県の決定は,被害者が避難という選択をした場合の適切な支援を一方的に打ち切るものであり,「避難する権利」の侵害という観点から,到底許されるべきではない。

 よって,当会は,福島県に対し,自主的避難者への住宅無償提供を打ち切るという方針を直ちに撤回するように求めるとともに,政府に対し,原発事故被害者の意向や生活実態に応じた立法措置を早急に講じるよう求める。


   2015年(平成27年)6月18日
山形県弁護士会
会 長  安孫子 英彦


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