Yamagata Bar Association
形県護士会

 山形県弁護士会について

 

少年法の適用年齢の引下げに反対する会長声明


 自由民主党は,少年法の適用対象年齢等の引下げに関し,「成年年齢に関する特命委員会」を設置し,検討を始めた。しかし,少年法は,少年の可塑性・未成熟性に着目し,少年への教育的な働きかけやその環境の調整を行い,少年の立直りをはかることを目的とするものであって,基本的に成人を対象とする刑法とは,その目的や機能が異なるものであり,以下のとおり,少年法の適用年齢を引き下げるべき理由はない。

 少年法の適用年齢引下げの議論がなされる背景には,①少年事件が凶悪化している,②少年法が十分に機能していない等の意見がみられる。

 しかし,少年事件が凶悪化しているという指摘には,客観的根拠がない。司法統計年報によれば,少年事件に関しては,家庭裁判所の終局決定人員中,殺人(未遂等も含む。)の事件数は,昭和40年代頃までは,200件を超えていたが,その後,長期的に見れば減少を続け,平成20年以降は,40件以下で推移している。このうち,殺人既遂の事件数は,統計上確認することができる平成13年以降については,多い年でも年間20件前後に留まっている。少年の殺人事件は,少年事件全体の数からみれば,発生件数が限られており,不幸にも発生した一部の事件にのみ着目し,少年法を改正する根拠とすべきではない。また,その他凶悪事件とされる強盗事件や強姦事件についても,家庭裁判所での終局決定事件数は,増加の傾向にはない。

 また,少年法が十分機能していないとの批判も,客観的根拠に基づいたものではない。少年司法手続においては,18歳及び19歳の年長少年を含め,罪を犯したと考えられる少年は全て家庭裁判所に送致される。そして,医学,心理学,教育学,社会学等の知識を活用し,少年の成育歴等にまで踏み込んだ家庭裁判所調査官による社会調査,必要がある場合には付添人による援助及び少年鑑別所における資質鑑別がなされた上で処分を決めており,十分機能していないとの批判には根拠はない。むしろ,成人では比較的軽微とされ,懲役刑に至らない事件であっても,少年事件においては,少年院送致がなされる場合がある等,成人と比して厳しい側面もある。少年法は,少年自身の責任とすることのできない家庭等の環境上の問題等により,課題を抱える少年に対して,専門的な知見に基づいてきめ細かな対応をするものであって,このような少年法の理念や取組みが機能していない等とする根拠はない。

 仮に少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げると,18歳及び19歳の少年が成人と同様の手続で処分されることになる。成人事件における公判請求率が,例えば平成25年は約7.3%であることからすれば,適用年齢の引下げによって,これまで全件が家庭裁判所に送致され,少年に対し,一定の調査や働きかけ,環境の調整等が図られていたにもかかわらず,そのほとんどのケースにこのような対応がなされないとの結果をもたらす。このような少年法改正は,少年の更生の機会を奪い,少年の再犯リスクを高める結果となりかねない。

 適用年齢引下げの議論は重大事件を念頭に置いてなされていると思われるが,少年法の適用年齢の引下げについて議論するのであれば,限られた個別の事件にのみ着目して十分な根拠もなく議論をするのではなく,統計等のデータや少年法に基づきこれまでなされた各種の取組みや成果を踏まえて,根拠に基づいた議論をすべきである。ことに,現行の制度においても,重大な少年犯罪については検察官に送致して成人と同じ刑事裁判を受けさせることが可能である。少年が刑事裁判を受けた場合の刑罰についても,2014年6月に厳罰化する方向での改正が行われたばかりである。この改正の結果の検証もないままにまた改正が行われるのは,非科学的な議論であるとの誹りを免れない。

 さらに,公職選挙法の改正によって選挙権が18歳から与えられたことを念頭に少年法の適用年齢引き下げについて議論されている面もあると思われるが,この点に関しても,選挙権が与えられている年齢と少年法の適用年齢が連動すべきという理由はない。法律の適用区分はその法律ごとの目的に応じて個別に決められるべきものである。例えば,民法では法律行為の能力をもつのは20歳とされているが,親の承諾なく養子縁組ができるのは15歳からとされている。これらは選挙権の付与とは違う目的で定められているのであり,18歳に統一する必要はないし,すべきでもない。

 以上のとおりであるから,当会は,少年法の適用年齢の引下げに強く反対するとともに,本件に関し,少年法固有の問題を十分に検討することを強く要請する。


   2015年(平成27年)8月25日
山形県弁護士会
会 長  安孫子 英彦


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