政府が2003年から2005年にかけて3回に渡り国会に提出した共謀罪創設規定を含む法案は、広範な市民の反対の声がその成立を許さず廃案となった。ところが、 2016年8月下旬、新聞各紙は、共謀罪法案について、政府が2020年の東京オリンピックのテロ対策を理由として、その名称を「テロ等組織犯罪準備罪」に変更し、対象となる団体を「組織的犯罪集団」に限定、「準備行為」を処罰条件とするなど装いを変え、臨時国会への上程を検討していると報道した。結局法案は秋の臨時国会には上程されなかったものの、政府は現在開催中の通常国会への上程を検討していると報じられている。上記のとおり法案に多少の変更が加えられたとしても、当会は、以下の理由により改めて4度目の国会への法案提出に強く反対するものである。
これらの報道によれば、政府が新たに提出する予定とされる法案(以下「提出予定新法案」という。)は、国連越境組織犯罪防止条約(以下「条約」という。)締結のための国内法整備として立案されたものであるが、その中では、「組織犯罪集団に係る実行準備行為を伴う犯罪遂行の計画罪」を新設し、その略称を「テロ等組織犯罪準備罪」とした。また、2003年の政府原案において、適用対象を単に「団体」としていたものを「組織的犯罪集団」とし、また、その定義について、「目的が4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」とした。さらに、犯罪の「遂行を2人以上で計画した者」を処罰することとし、その処罰に当たっては、計画をした誰かが、「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の準備行為が行われたとき」という要件を付したとされている。
しかし、「計画」とはやはり「犯罪の合意」にほかならず、共謀を処罰するという法案の法的性質は何ら変わっていない。また、「組織的犯罪集団」を明確に定義することは困難であり、「準備行為」についても、例えばATМからの預金引き出しなど、予備罪・準備罪における予備・準備行為より前の段階の危険性の乏しい行為を幅広く含み得るものであり、その適用範囲が十分に限定されたと見ることはできない。共謀罪の対象犯罪については、当初の報道では提出予定新法案は2003年の政府原案と同様に600以上の犯罪を対象に「テロ等組織犯罪準備罪」を作るとされていたが、最近は成立を優先してこれを300以下に限定するとも報道されている。しかし、対象が300以下であれば問題がなくなるということでは決してなく、また、条約との関係でそもそも絞り込むことはできないのではないかとも報道されている。
今般の刑事訴訟法改正に盛り込まれた通信傍受制度の拡大に提出予定新法案が加わったときには、テロ対策の名の下に市民の会話が監視・盗聴され、市民社会のあり方が大きく変わるおそれさえあると言わなければならない。
当会は,これまで2006年3月に共謀罪の新設に反対する会長声明を発しており,共謀罪の新設は我が国刑法の原理に反し、思想・表現の自由などの人権を侵害し、自白強要の取調方法が強まり、監視社会を招くなど、市民生活にとって重大な脅威となるとの危惧を表明している。
提出予定新法案も同様に、憲法の保障する思想・信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由などの基本的人権に対する重大な脅威となるばかりか、刑法の基本原則を否定するものであり、当会は提出予定新法案の国会への上程に強く反対する。
2017年(平成29年)2月24日
山形県弁護士会
会長 山 川 孝