厚生労働大臣は,本年6月頃,中央最低賃金審議会に対し,2019年度地域別最低賃金額改定の目安についての諮問を行い,同審議会から,本年7月頃,答申が行われる見込みである。昨年,同審議会は,全国加重平均26円の引上げ(全国加重平均874円)を答申し,これに基づき各地の地域別最低賃金審議会において地域別最低賃金額が決定された。
しかし,時給874円という水準は,1日8時間,週40時間働いたとしても,月収約15万2000円,年収約182万円にしかならない。この金額では労働者が賃金だけで自らの生活を維持していくことは到底困難である。仮に時給1000円であったとしても,年収では,いわゆるワーキングプアと呼ばれる水準である200万円をわずかに超える程度にしかならず,その異常性は明らかである。
また,日本の最低賃金は先進諸外国の最低賃金と比較しても著しく低い。フランス,イギリス,ドイツの最低賃金は,日本円に換算するといずれも1100円を超えている。アメリカでも,ニューヨーク州やカリフォルニア州が15ドルへの引上げを決定したのを始め,全米各地の自治体で最低賃金大幅引上げが相次いでいる。国際的に見て日本の最低賃金の低さは際立っている。
我が国の貧困と格差の拡大は深刻な事態となっている。我が国の2015年貧困率は15.6%であり,3年前の16.1%と大差なく,以前として高い水準を維持している。女性や若者に限らず,全世代で貧困が深刻化している状況である。働いているにもかかわらず貧困状態にある者の多数は,最低賃金付近での労働を余儀なくされており,最低賃金の低さが貧困状態からの脱出を阻害する大きな要因となっている。最低賃金の迅速かつ大幅な引上げが必要である。
最低賃金の地域間格差が依然として大きく,ますます拡大していることも見過ごすことのできない問題である。2018年の最低賃金は,最も高い東京都で985円であるのに対し,最も低い鹿児島県では761円であり,224円もの開きが存在するそして,このような地域間格差は年々拡大している。地方では賃金が高い都市部での就労を求めて若者が地元を離れてしまう傾向が強く,労働力不足が深刻化している。地域経済の活性化のためにも,最低賃金の地域間格差の縮小が急務である。
山形県の地域別最低賃金について言えば,平成29年10月6日より適用の時給が739円であったところ,平成30年10月1日より,24円引上げ,763円(引上げ率3.25%)となっている。改善の傾向はみられるものの,最も高い東京都の985円と比較して,222円もの開きがある。
かかる最低賃金の地域間格差の存在は,当県からの有為な人材の流出を引き起こしかねないと共に,人口減少に危機感を抱いている本県において,人口還流の障壁ともなりかねない。
最低賃金の引き上げの効果として,労働者の離職率を下げ,新規採用・訓練のコストを減らし,生産性の向上に繋がること,さらに,賃金が消費に回り地域的及び全国的に経済成長を刺激することが挙げられる。このようなメリットを得るために,最低賃金の大幅な引き上げは早急に実現されるべきものである。
加えて,2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」には,2020年までに『全国平均1000円,全国最低800円』にするという目標が明記されている。山形県において,2020年まで最低賃金額1000円という目標を達成するためには,237円の引上げが必要であり,全国最低の目標値(800円)に達するためだけでも,37円の引上げが必要となる。当該目標を達成するためにも,至急,最低賃金の大幅な引き上げが行われるべきである。
なお,最低賃金の大幅な引上げは,特に中小企業の経営に大きな影響を与えることが予想される。最低賃金の引上げが困難な中小企業のために,最低賃金の引上げを可能とするための社会保険料の減免措置や補助金制度等の構築を検討すべきである。さらに,中小企業の生産性を高めるための施策や減税措置などが有機的に組み合わされることが必要である。私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律や下請代金支払遅延等防止法をこれまで以上に積極的に運用し,中小企業とその取引先企業との間での公正な取引が確保されるようにする必要がある。
以上のことを踏まえて,当会は,山形労働局長に対し,山形県の地域別最低賃金の大幅な引上げを図り,地域経済の健全な発展を促すとともに,労働者の健康で文化的な生活の確保を求めるものである。
2019年(令和元年)6月28日
山形県弁護士会
会長 脇山 拓