Yamagata Bar Association
形県護士会

 山形県弁護士会について

 

最低賃金額の大幅な引上げと中小企業支援強化並びに全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明

 

 厚生労働大臣は,近いうちに,中央最低賃金審議会に対し,2020年度地域別最低賃金額改定の目安についての諮問を行い,同審議会から,本年7月頃,答申が行われる見込みである。昨年,同審議会は,全国加重平均27円の引上げ(全国加重平均901円)を答申し,これに基づき各地の地域別最低賃金審議会において地域別最低賃金額が決定された。

 

 しかし,時給901円という水準は,1日8時間,週40時間働いたとしても,月収約15万7000円,年収約188万円にしかならない。この金額では労働者が賃金だけで自らの生活を維持していくことは到底困難である。仮に時給1000円であったとしても,年収では,いわゆるワーキングプアと呼ばれる水準である200万円をわずかに超える程度にしかならず,その異常性は明らかである。 

 

 今般,政府の緊急事態宣言により,経営基盤が脆弱な多くの中小企業が倒産,廃業に追い込まれる懸念も広がる中,最低賃金の引上げが企業経営に与える影響を重視して引上げを抑制すべきという議論もある。

 しかし,労働者の生活を守り,新型コロナウイルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも,最低賃金額の引上げを後退させてはならない。多くの非正規雇用労働者をはじめとする最低賃金付近の低賃金労働を強いられている労働者は,もともと日々生活するだけで精一杯で,緊急事態に対応するための十分な貯蓄をすることができていない。ここに根本的な問題がある。また,今般の緊急事態下において,小売店の店員,運送配達員福祉・介護サービス従事者等の社会全体のライフラインを支える労働者の中には,最低賃金付近の低賃金で働く労働者が多数存在する。これらの労働者の労働に報い,その生活を支え,社会全体のライフラインを維持していくためにも最低賃金の引上げは必要である。

 一方,最低賃金の引上げによって経営に大きな影響を受ける中小企業に対しては,新型コロナウイルス感染拡大に備えた支援策が拡充されているところであるが,政府は,長期的継続的に中小企業支援策を強化すべきである。

 山形県では独自の施策として,中小・小規模事業者の生産性向上を支援することで,労働者の賃金引上げを図る「業務改善奨励金」を平成30年度に全国で初めて創設し,中小・小規模事業者の支援に努め,非正規雇用労働者の正社員化と所得向上を目的とする「正社員化・所得向上促進事業奨励金」と併せて,労働者の所得向上と雇用の安定を一体的に推進しているが,これらは本来国の施策として行われるべき内容のものである。そして最低賃金の引上げが困難な中小企業のための社会保険料の減免や減税,補助金支給等の中小企業支援策の検討を進めるべきである。また,中小企業の生産性を向上させるための施策を有機的に組み合わせることや,これまで以上に私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律や下請代金支払遅延等防止法を積極的に運用し,中小企業とその取引先企業との間で公正な取引が確保されるよう努めることも重要である 。 

  

 最低賃金の地域間格差が依然として大きく,ますます拡大していることも見過ごすことのできない重大な問題である。2019年の最低賃金は,最も高い東京都で時給1013円であるのに対し,最も低い15県では時給790円であり,223円もの開きがあった。 そして,地方では賃金が高い都市部での就労を求めて若者が地元を離れてしまう傾向が強く,労働力不足が深刻化している。地域経済の活性化のためにも,最低賃金の地域間格差の縮小が急務である。

 

 山形県の地域別最低賃金について言えば,2018年10月1日より適用の時給が763円であったところ,2019年10月1日より,27円引上げ,790円(引上げ率3.54%)となっている。年々改善傾向ではあるものの,最も高い東京都の1013円と比較して223円,昨年より1円格差が増大する結果となっている。 

 

 かかる最低賃金の地域間格差の存在は,当県からの有為な人材の流出を引き起こしかねないと共に,人口減少に危機感を抱いている本県において,人口還流の障壁ともなりかねない。

 

 最低賃金の引き上げの効果として,労働者の離職率を下げ,新規採用・訓練のコストを減らし,生産性の向上に繋がること,さらに,賃金が消費に回り地域的及び全国的に経済成長を刺激することが挙げられる。このようなメリットを得るために,最低賃金の大幅な引き上げは早急に実現されるべきものである。

 

 また,山形県では平成30年度の政府の施策等に対する提案の時から,最低賃金のランク制度を廃止し,全国一律の適用を行うよう働き掛けを行ってきている。令和2年度の施策提案においても昨年6月に提案をしてきた。 日本弁護士連合会でも,2020年2月20日付けで「全国一律最低賃金制度の実施 を求める意見書」が発表されており,政府においても早急に,全国一律最低賃金制度の実現に向けた検討が開始されるべきである。

 

 以上のことを踏まえて,当会は,山形労働局長に対し,山形県の地域別最低賃金の大幅な引上げを図り,地域経済の健全な発展を促すとともに,労働者の健康で文化的な生活の確保を求めるものである。

 

        

2020年(令和2年)6月29日

山形県弁護士会   
会長 阿 部 定 治

 


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