Yamagata Bar Association
形県護士会

 山形県弁護士会について

 

少年法改正案に反対する会長声明

 

  • 第1 意見の趣旨
      •  政府が2021年2月19日に閣議決定し、国会に提出した「少年法等の一部を改正する法律案」(以下「改正法案」と言う。)は、18歳及び19歳の少年について、類型的に未だ十分に成熟しておらず、成長発達途上にあって可塑性を有する存在であることを前提に、少年法の適用を認め、家庭裁判所に対する全件送致の建前を維持しており、「少年の健全な育成」を期すという少年法の従来の枠組みの中で捉えている点は相当と言えるものの、原則逆送事件の対象範囲を拡大し、一定の場合に推知報道を認める等、少年法の掲げる少年の健全育成という理念を後退させる問題点が残されていることから、当会は、本改正法案に反対する。


  • 第2 理由
    • 1 はじめに
      •  近年、公職選挙法の選挙年齢、民法の成年年齢の引き下げにかかる法改正が行われたことを踏まえ、少年法についても、同法の適用年齢を18歳未満に引き下げることの是非等について問題となり、政府より、法制審議会に対し諮問がなされ、法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会において議論がなされていたところである。

         法制審議会での約3年半に渡る議論の結果、2020年10月29日、法制審議会総会において答申(以下「本件答申」という。)が採択され、今般、政府は本件答申に基づき作成された改正法案を閣議決定し、本通常国会に提出した。

         これまで、法制審議会においては、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げることの是非を中心として議論がなされた。少年法の適用年齢引下げについて、市民及び様々な団体から反対の意見が出され、日本弁護士連合会及び各弁護士会も反対の運動を展開した。その結果、本件答申及び改正法案では、少年法の適用年齢は維持され、家庭裁判所での手続き及び処分の基本的内容は概ね維持されるなど、18歳及び19歳の少年に対しても、多くの点で現行少年法がそのまま適用されるとされており、その点は相当であると言える。

         しかし、改正法案の内容は、以下述べるとおり重大な問題を含んでいることから、このような改正には反対である。

    • 2 改正法案に反対する具体的な理由
    • (1) 原則逆送事件の対象を拡大していること
        •  改正法案では、18歳及び19歳の少年が短期1年以上の刑にあたる罪を犯すと
          原則逆送とすることが示されている。

           短期1年以上の刑にあたる罪とは、具体的には強盗罪や強制性交罪などであるが、強盗罪や強制性交罪などは、行為態様や事件に至る経緯も様々である。しかし、事件ごとの個別事情を考慮せず原則逆送とされてしまうと、これまで個別処遇によって保護処分で更生が図られていた少年に対して、法改正の後は保護処分を下すことが困難となり未成熟な18歳及び19歳の少年の健全育成が図られないこととなる(なお、逆送しない場合の考慮要素(2項ただし書)には、20条2項とは異なり「犯行の結果」が加えられている。)。

           なお、原則逆送事件であっても家庭裁判所調査官による調査や少年鑑別所における心身鑑別などは行われ、逆送すべきでない案件は保護処分になるはずであるとの見解もあるが、これは楽観的に過ぎる。実務上、原則逆送事件においては、まさに「原則逆送」を前提として家庭裁判所調査官の調査や少年鑑別所の心身鑑別が実施され、家庭裁判所の判断も逆送を前提に進められる。このような中では、本来保護処分にすべき個別の問題が看過される可能性が高い。

           したがって、18歳及び19歳の少年について原則逆送事件の範囲を拡大することとする改正法案は、重大な問題があり、反対である。

    • (2) 家庭裁判所による保護処分の選択等において、犯情の軽重のみを強調したこと
        •  改正法案によると、18歳及び19歳の少年に対する家庭裁判所の処分は「犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において」保護処分を選択し、少年院に収容する場合には「犯情の軽重を考慮して」その期間を定めなければならないとして、家庭裁判所の保護処分の選択等に際して、犯情の軽重のみを強調する規定となっている。

           今までの少年事件では、犯罪事実(非行事実)だけでなく要保護性についても家庭裁判所が保護処分を選択する際の重要な考慮要素とする枠組みが維持されていた。仮に、改正法案のとおり、家庭裁判所の処分決定において行為責任のみを強調することになれば、例えば、少年の要保護性が高い場合であっても、他方で被害結果が小さい等の理由で犯情が軽い場合には、少年院に送致する処分を選択することができないことになり、少年の更生や再犯防止という観点からして不十分な対応しかできなくなる。また逆に、少年を少年院に送致する処分をした場合でも、あらかじめ犯情の軽重に応じた期間を設定することになるため、少年の改善状況や環境整備状況を考慮して早期に退院させるという柔軟な対応ができなくなってしまう。

           このように、犯情の軽重のみを考慮要素として強調することは、18歳及び19歳の少年について、せっかく今までの少年法の枠組みの中で扱おうとしたにもかかわらず、あえて特別な枠組みを設けるものとなってしまい、今までの少年法の取組みを無為にするものであることから、このような改正法案には重大な問題があり、反対である。

    • (3) 保護処分の対象者から「18歳及び19歳のぐ犯少年」を対象外としたこと
        •  改正法案によると、保護処分の対象者について「罪を犯した18歳及び19歳の少年」のみを対象とする方向に変え、犯罪には該当しない「18歳及び19歳のぐ犯少年」は、対象外とされている。

           少年が虐待や貧困などにより社会的に弱い立場におかれると、その環境に強く影響されて、つい非行に近づいてしまうこともある。「18歳及び19歳のぐ犯少年」を対象外とすることは、このような環境に置かれた少年に教育や更生の機会を与えないことになり、それは「少年の健全な育成」を期す少年法の目的(少年法1条)に悖る。これに対しては、行政や福祉の分野における各種支援を期待すべきとの意見もあるが、現にそのような支援を得られていないからこそぐ犯少年となっている現状を重視すべきであり、何より少年自身が支援・処遇に応じる意向がない場合には、その対応にも限界がある。それ故、今もってなお、ぐ犯を少年法で対応することは最後のセーフティーネットとして重要なのである。

           そもそも、改正法案は「成年年齢の引下げ等の社会情勢の変化及び少年による犯罪の実情に鑑み」てぐ犯をその対象から除外するが、2022年4月1日に施行される成年年齢引き下げを以てしても「18歳及び19歳のぐ犯少年」を除外するほどの社会情勢の変化があったとは考えられず、またこの間「少年による犯罪の実情」がソーシャルメディアの発達により密行性が高まった反面被害がより広範囲かつ深刻化しやすくなったことを考えれば、「社会情勢の変化」及び「少年による犯罪の実情」に「18歳及び19歳のぐ犯少年」を除外するほどの立法理由を見出すことはできない。

           このように、改正法案は、18歳及び19歳の少年についても従来の少年法の枠組みの中で扱おうとしたにもかかわらず、ぐ犯を対象外とすることで、従来の少年法の枠組みから実質的に外してしまうものであって、重大な問題があり、このような改正には反対である。

    • (4) 一定の場合に推知報道が許されること
        •  改正法案によると、18歳及び19歳の少年については、逆送されて公判請求された場合には、推知報道の制限が及ばないこととされている。

           本件答申でも、18歳及び19歳の少年について、可塑性があることを明示しているにも拘わらず、推知報道が許されるとすれば、全国的に犯罪者として実名が知られることとなる。一旦推知報道が行われると、半永久的にインターネット上などに情報が残る恐れがあり、18歳及び19歳の少年の更生を大きく妨げることは明白である。

           また、18歳及び19歳の少年については公判請求されたとしても、再度家庭裁判所に送致される可能性がある。そうであるにも拘わらず、推知報道がされるとすれば保護処分となるべき者についても実名が広く知られてしまい、推知報道を禁止した趣旨が没却されてしまう。

           したがって、18歳及び19歳の少年については、逆送されて公判請求された場合には推知報道の制限が及ばないとする改正法案については、重大な問題があり、反対である。

    • (5) 資格制限の排除を明言していないこと
        •  現行少年法が罪を犯した少年について各種法律に定められた国家資格などの資格を取得することを制限(以下、資格制限という)しないと明言しているにも関わらず、18歳及び19歳の少年については、資格制限の排除が及ばないこととされた。

           現行少年法が資格制限の排除を明言しているのは、様々な資格取得について制限されることとなるのは、少年の更生に妨げとなるからである。

           本件答申においても、既に指摘したように18歳及び19歳の少年が未成熟で発展途上の存在であることを認めており、改正法案でも、将来的な更生のために資格制限を排除すべきであった。

           したがって、18歳及び19歳の少年に対して資格制限の排除が及ばないとした改正法案には、重大な問題があり、反対である。

  • 3 まとめ
      •  上記のとおり、改正法案の内容は、18歳及び19歳の少年について未成熟な存在であることを認めつつ、一方でその更生を妨げることを許容する内容となっている。18歳及び19歳の少年については、現行少年法に基づいて更生を図るべきであり、当会は、健全育成という少年法の理念を後退させる改正法案について、反対する。

    以上


2021(令和3)年 3月31日

 

山形県弁護士会   
会長 阿 部 定 治

 


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