長期に及ぶ新型コロナウイルスの感染まん延により、地域経済が深刻な状態となり、労働者の収入が減少している。さらに、ロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、食料品や光熱費など生活関連品の価格が急上昇している。
そのように経済が停滞する状況下において、フランス、ドイツ、イギリスなど多くの国が、複数回にわたって最低賃金の大幅引上げを実現しており、我が国でも2022年度において大幅引上げが必要である。
山形地方最低賃金審議会は、2021年度山形県最低賃金について時給793円を29円引上げ822円(前年からの引上げ率3.66%)にするとの答申を行い、山形労働局長も答申通りの改正決定を行った。労働者の生活を守り、新型コロナウイルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも、最低賃金額の引上げを後退させてはならないのであり、山形労働局長の昨年の引き上げの決定は評価されるべきである。
とはいえ、時給822円という水準は、依然として労働者が賃金だけで自らの生活を維持していくことが困難な水準にとどまっている。
最低賃金の地域間格差が依然として大きく、格差が是正していないことは重大な問題である。2021年度の最低賃金は、最も高い東京都で時給1041円であるのに対し、最も低い高知県と沖縄県は時給820円であり、221円の開きがある。全国的に最低賃金の引上げがみられるものの、221円という格差は、2020年度と同一であり、地域間の格差は縮まっていない。地方では賃金が高い都市部での就労を求めて若者が地元を離れてしまう傾向が強く、労働力不足が深刻化している。地域経済の活性化のためにも、最低賃金の地域間格差の縮小が急務である。
地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、最近の調査によれば、都市部と地方の間で、ほとんど差がないことが明らかになっている。これは、地方では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されるため、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることなどの事情が背景にある。そもそも、最低賃金は、「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されない。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、全国一律最低賃金制度を実現すべきである。
現在、厚生労働省の中央最低賃金審議会において「目安制度のあり方に関する全員協議会」が設置され検討がなされており、2023年3月をめどに報告がまとめられる予定である。中央最低賃金審議会は、地域別最低賃金引上額の目安を決定するに当たって、全国をA~Dの4つに区分し、これまではそれぞれの引上額の目安に差を設けていた。しかしながら、2020年、2021年は、A~D全ての地域に一律の目安額を示した。さらにC、D地域の地方最低賃金審議会では目安額を上回る答申が相次いだ。
日本弁護士連合会からも2022年4月13日には「低賃金労働者の生活を支え地域経済を活性化させるために、最低賃金額の引上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明」が発せられている。
政府においても早急に、全国一律最低賃金制度を実現すべきである。
山形県では、県、県議会、市町村、市町村議会及び産業経済団体等で構成する山形県開発推進協議会が、2020年度以降、毎年度「政府の施策等に対する提案」において最低賃金のランク制度を廃止し、全国一律の適用を行うよう働き掛けを行ってきた。昨年6月に出された2022年度の施策提案においても人口の都市部集中の大きな要因である賃金の地域間格差を是正するため、最低賃金のランク制度を廃止し、全国一律の適用を行うとともに、影響を受ける中小企業・小規模事業者への支援の充実を図ることを求めている。
以上のことを踏まえて、当会は、地域経済の健全な発展を促すとともに、労働者の健康で文化的な生活の確保を図るため,山形労働局長に対し、山形県の地域別最低賃金の大幅な引上げを行うよう求めるものである。
2022年(令和4年)6月24日
山形県弁護士会
会長 小 野 寺 弘 行