Yamagata Bar Association
形県護士会

 山形県弁護士会について

 

「袴田事件」の速やかな再審公判開始及び袴田巖氏の雪冤を求める会長声明

 

 本年3月13日、東京高等裁判所(大善文男裁判長)は、いわゆる「袴田事件」の第二次再審請求事件について、静岡地方裁判所の再審開始決定を支持して、検察官の即時抗告を棄却する決定をし、検察官が特別抗告を断念したことにより再審開始決定が確定した。

 当会は、速やかに再審公判が開始され、一刻も早く、無罪判決により、袴田巖氏の雪冤が果たされることを強く求めるものである。

 袴田事件は、1966年(昭和41年)6月30日未明、旧清水市(現静岡市清水区)の味噌製造会社専務宅で一家4名が殺害された強盗殺人・放火事件である。同年8月に逮捕された袴田氏は、当初から無実を訴えていたが、過酷な取調べを受けた結果、パジャマを着て行ったと本件犯行を自白させられ起訴された。ところが、事件から1年2か月後の一審公判中に、多量の血痕が付着した5点の衣類が味噌タンクの中から発見され、検察官は、犯行着衣はパジャマではなく犯行途中で着替えてタンクに隠した「5点の衣類」であると冒頭陳述を変更、裁判所もそのとおりに認定して、死刑判決を下した。

 しかし、上記「5点の衣類」が本件の犯行着衣であり、袴田巖氏のものであるとの確定判決の認定については、第一次再審請求の即時抗告審以降、激しく争われてきており、再審請求手続において検察官と請求人の双方が主張立証を重ねてきた。そのうち、「5点の衣類」に付着した血痕の色調に関しては、既に最高裁判所の判断を経て、差戻審において審理すべき点が具体的に示され、東京高等裁判所も、その判断を踏まえて実施した事実取調べの結果に基づき、静岡地方裁判所の再審開始決定を支持したものである。

 本件については、今後、再審公判の手続が開始される予定であるが、再審公判に関する刑事訴訟法の規定は、451条、452条の2か条しか存在せず、再審公判の手続は、裁判所の裁量によるところが大きくなることが予想される。

 しかし、上記のとおり、本件では、長期に及んだ再審請求手続において、本件の争点について、検察官と請求人の双方が主張・立証を尽くし、その結果、確定判決に合理的な疑いが生じたとの判断がなされている。このような本件の審理経過に照らせば、本件の実質的な審理は、再審請求手続の段階で既に尽くされているというべきであって、もはや新たな有罪立証を行うことは許されない。それにもかかわらず、報道によれば、検察官は、本年4月10日に開かれ  た三者協議の場において、再審公判における立証方針を決定するために3か月を要するとして、明確な方針を表明していないとのことであり、再審公判の手続の長期化が懸念される。袴田巖氏が87歳と高齢であることや、拘禁反応の影響と思われる心身の状況をも鑑みれば、再審公判では、再審請求手続の審理の蒸し返しを許すことなく、その成果を尊重して、迅速な審理により、袴田巖氏に対する無罪判決がなされるべきである。

 よって、当会は、速やかに再審公判を開始するとともに、袴田巖氏に対する無罪判決がなされることを強く求める。

 当会は、今後も袴田巖氏が無罪となるためにできる限りの支援を行うとともに、再審請求手続における証拠開示の法制化、再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止、再審公判の手続規定の整備をはじめとする再審法改正を含め、えん罪の防止・救済のための制度改革の実現を目指して全力を尽くす決意である。

 

2023年(令和5年)5月31日

山形県弁護士会  

会長 粕 谷 真 生

 


上へ

Copyright © 2004-2015 Yamagata Bar Association,