近年の極端な円安やロシアによるウクライナ侵攻の影響等により、消費者物価の大幅な上昇が続いている。労働者が安定した生活を送るには、全ての労働者の実質賃金の上昇又は維持を実現する必要があり、そのためにはまず最低賃金額を大きく引き上げることが何よりも重要である。
昨年、中央最低賃金審議会は、山形県を引上げ額の目安を39円とするCランクに位置付けていたところ、これに基づき山形地方最低賃金審議会において山形県の最低賃金額が決定され、山形県においては、46円の引上げ(最低賃金額900円)となった。
しかし、時給900円というのは、1日8時間、週40時間働いたとしても、月収は約14万円から15万円、年収約177万円にしかならない。依然として労働者が安定した生活を送ることが困難な水準にとどまっている。
また、昨年度は、最低賃金額の地域間格差を解消することを目的として、全国各都道府県をAからDの4段階に分け、そのランク毎に引上額の目安を呈示していた方法を改め、これをAからCの3段階とした。山形県はDランクに分類されていたものがCランクに分類されるようになった。しかし、ランク制が維持された結果、地域別最低賃金が最も高い東京都の時給1113円と山形県の最低賃金の差は213円となっており、一昨年度と比べ6円差が縮小しているものの、地域間格差は全く解消されていない。
地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、最近の調査によれば、都市部と地方の間で、ほとんど差がないという分析がなされている。これは、都市部以外の地域では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限され、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。そもそも、最低賃金は、労働者が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されない。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、最低賃金は、賃金の高い都道府県の最低賃金を引き下げることなく、全国一律となるべきである。
加えて、最低賃金の大幅な引上げは、特に地方における中小企業の経営に影響を与える可能性が大きいことから、今後、更に最低賃金を引き上げていくに当たっては、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)や下請代金支払遅延等防止法(昭和31年6月1日法律第120号)をこれまで以上に積極的に運用し、中小企業とその取引先企業との間で公正な取引が確保されるようにするとともに、社会保険料の事業主負担分の減免などの中小企業支援策を実現することが不可欠である。
山形県では、県、県議会、市町村、市町村議会及び産業経済団体等で構成する山形県開発推進協議会が、2020年度以降、毎年度「政府の施策等に対する提案」において最低賃金のランク制度を廃止し、全国一律の適用を行うよう働き掛けを行ってきた。昨年6月に出された2024年度の施策提案においても人口の都市部集中の大きな要因である賃金の地域間格差の是正に向けて、最低賃金のランク制度を廃止し、全国一律の適用を行うとともに、積極的な賃上げを後押しするために、中小企業・小規模事業者への支援の充実を図ることを求めている。
日本弁護士連合会も、2020年2月20日に「全国一律最低賃金制度の実施を求める意見書」を公表し、地域別最低賃金を廃止するとともに、最低賃金については中央最低賃金審議会において決定する仕組みに改め、また、一定の猶予期間を設け、東京都を含む最低賃金の高い都道府県の最低賃金を引き下げることなく全体の引上げを図るとともに、併せて、充実した中小企業支援策を構築することを求めているところであり、本年4月26日には「最低賃金額の大幅な引上げ及び地域間格差の是正を求める会長声明」が発せられている。
中央最低賃金審議会は、現行の目安制度が地域間格差を解消できなくなっていることを直視し、目安制度に代わる抜本的改正策として、全国一律制実現に向けた提言をなすべきであり、政府においても、早急に、全国一律最低賃金制度を実現すべきである。
以上のことを踏まえて、当会は、都市部との最低賃金の格差を少しでも縮小しつつ、地域経済の健全な発展を促すとともに、労働者の健康で文化的な生活の確保を図るため、山形労働局長が、山形県の地域別最低賃金の引上げを行うことを求めるものである。
2024年(令和6年)6月28日
山形県弁護士会
会長 金 山 裕 之