本年7月3日、最高裁判所大法廷は、「旧優生保護法」に基づいて実施された強制不妊手術に関する国家賠償請求訴訟5件の上告審において、除斥期間の適用を制限し、被害者らによる賠償請求の道を開く判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。
「旧優生保護法」は、優生思想を前提として1948年に制定された法律であり、1996年に優生思想に基づく規定が削除された「母体保護法」に改正されるまで存続したが、具体的には、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止することを目的として、優生手術(不妊手術)について規定をし、遺伝性疾患、ハンセン病、精神障がいがある人等に対し、本人の同意がなくとも、審査によって強制的に優生手術等を実施することができることなどを規定するものであった。
本判決は、特定の疾病や障害を有する者等を対象とする旧優生保護法の不妊手術に関する規定は、「個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反する」上、合理的な根拠に基づかない差別的取扱いに当たるものであり、憲法第13条及び第14条第1項に違反するものであったことを明示し,特定の障がいを有する者を差別して優生手術を推進し、長期間にわたって補償の措置をしなかった国が、除斥期間の経過により賠償請求権は消滅したと主張することは著しく正義・公平の理念に反し到底容認することはできず、除斥期間の主張は信義則に反し、権利の濫用として許されないと判断した点において、画期的な判決である。
「旧優生保護法」が「母体保護法」にかわるまでの48年間に、不妊手術が約2万5000件、人工妊娠中絶が約5万9000件、全部で約8万4000件の手術が実施されたとされている。しかし、国家賠償請求訴訟の提起をした被害者は40人弱に過ぎず、2019年4月24日に成立した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という。)に基づく一時金の請求件数は、本年6月30日現在で、1400件に満たない。
一時金支給法は、一時金が低額であること、配偶者に対する支給規定がないこと、被害者の相続人への支給規定がないことなどの点で不十分である。また「一時金」という名称自体が、損害賠償の意味を含まないことから、「補償金」等、損害賠償の意味を含む文言に変更する必要がある。現行の法律を抜本的に改め、早期に、全面的な被害回復措置を実現することを求めるものである。
当会は,被害者の全面的被害回復の実現に向けて真摯に取り組んでいく所存である。
2024年(令和6年)8月30日
山形県弁護士会
会長 金 山 裕 之