Yamagata Bar Association
形県護士会

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選択的夫婦別姓制度の導入を求める会長声明

選択的夫婦別姓は、婚姻しようとする人が別姓を望む場合に、同姓・別姓のいずれかを強制するのではなく、改姓するかどうか(結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の姓を称するかどうか)を自ら決定する選択の自由を認めるものである。

民法第750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」と定めて、夫婦同姓を義務付けている。また、「婚姻は、戸籍法の定めるところにより、これを届け出ることによってその効力を生ずる」とされ(民法739条1項)、戸籍法上、夫婦が称する氏は婚姻届の必要的記載事項である(戸籍法74条1号)ことからすれば、現行法上、国民は、婚姻しようとする人が別姓を望む場合に、改姓するかどうかを自ら決定する選択の自由をもたないこととなる。

しかしながら、氏名は「人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する」(最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決)ものであることにかんがみれば、「氏名の変更を強制されない自由」もまた、人格権の重要な一内容として、憲法第13条によって保障されることは明らかである。それにもかかわらず、婚姻しようとする人が別姓を望む場合に、改姓するかどうかを自ら決定する選択の自由を認めないことは、人格権を侵害するものであり、憲法第13条に違反すると考えられる。

さらに、民法第750条は、夫婦別姓を望む者は信条に反し夫婦同姓を選択しない限り法律上の婚姻を認めず、その法的効果を享受させないものであり、信条によって差別的な取り扱いをするものであって、憲法第14条の「法の下の平等」にも反する。

また、憲法24条1項が、婚姻は両当事者の合意のみに基づいて成立する旨を明記していることを考えると、法律が、婚姻の成立について、両当事者の合意以外に、不合理な要件を定めることは、違憲という他はない。

1996年、法制審議会は選択的夫婦別姓制度を導入する「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申したが、実現されないまま既に29年が経過しているが、国会での議論が進んでいない。

最高裁判所は、2015年12月16日の判決及び2021年6月23日の決定で民法第750条を合憲としたが、これらの判断は、同制度の導入を否定したものではなく、法制度の合理性に関わる国民の意識の変化や社会の変化等の状況は、本来国会において不断に目を配り、対応すべき事柄であると指摘するとともに、選択的夫婦別姓制度の導入に関する最近の議論の高まりについても、国会において受け止めるべきであり、夫婦の姓に関する制度の在り方は「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」として、国会での議論を促したものである。

そして近時の世論や情勢においては、官民の各種調査において選択的夫婦別姓制度の導入に賛成する意見が高い割合を占め、また昨年、日本経済団体連合会は、女性活躍の壁を乗り越えるために必要であるとして、選択的夫婦別姓制度を早期に実現することを求める提言を行っている。

2024年10月29日、国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)は、日本政府に対して、婚姻後の夫婦同姓が強制されている民法の規定を改正し、夫婦が婚姻後も別姓を選択できる制度を導入することを求める勧告を行った。このような、国連女性差別撤廃委員会による夫婦同姓制度を定めた民法の規定の改正を求める旨の勧告は、2003年、2009年、2016年に続いて実に4度目である。世界各国の婚姻制度を見ても、夫婦同姓を法律で義務付けている国は、日本のほかには見当たらない。民法第750条が、国際的にみて、女性差別撤廃条約第16条第1項(b)が保障する「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」及び同項(g)が保障する「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)」を侵害するものであることは明らかである。

なお、社会的には旧姓の通称使用が拡大しているものの、通称使用を認めただけでは上記に挙げた憲法違反のおそれは根本的に解消されない。さらに、通称名と戸籍名の使い分けが必要となって混乱を招くことも多く、金融機関等との取引や公的機関・企業とのやり取り等に困難を抱えており、抜本的な解決策とはなっていない。

今、選択的夫婦別姓の導入を求める世論はかつてないほどに高まっており、選択的夫婦別姓制度を直ちに導入しなければならない。2025年の通常国会において、選択的夫婦別姓の導入を盛り込んだ複数の法案の審議がなされ、秋の臨時国会において改めて審議がなされる予定である。国は、姓の変更を強制されない自由、婚姻の自由に反する重大な人権侵害を取り除かなければならない。

したがって当会は、選択的夫婦別姓制度の早期実現のため全力を挙げて取り組むことを改めて決意するとともに、国に対し、民法第750条を直ちに改正し、選択的夫婦別姓制度を導入することを改めて強く求める。

2025年(令和7年)8月 1日

山形県弁護士会
会長 伊 藤 陽 介


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